Aida with tour guide

【訪日客同行調査】シンガポール人観光客の高野山宿坊体験に完全密着!【第3章】地域限定型の通訳案内士の現状と課題

前回に引き続き、弊社スタッフが同行したシンガポール人観光客、Aida Liu さんの高野山旅行2日目をお届けします。最3章の今回は、Aidaさんが予約した現地ツアーの通訳案内士に対しての感想をまとめました。果たして、この現地ガイドはAidaさんの「高野山をもっと知りたい」というニーズを満たすことができたのでしょうか?

外国人客案内デスクのチラシを見て、Aidaさんは着地型ツアーを頼む

朝のお勤めが終わると、Aidaさんは宿坊先である「清浄心院」に荷物を一旦預け、チェックアウト。前日に予約したハイキングツアーの日本人ガイドが待ち合わせ場所として指定された高野山宿坊協会の中央案内所に向かった。集合時間である朝9時にはガイド登録証を首から掲げている日本人ツアーガイドがすでに待っていた。Aidaさんは母国語である英語で高野山を知るため、ツアーガイドとは英語で話し始めた。

補足:前回にもお伝えした通り、現地ツアーを頼んだ背景は、大師協会の外国人客案内デスクに貼られているチラシをAidaさんが見たことがきっかけとなっている。Aidaさんは高野山でハイキングが有名なのは知っていたが、長い山道を歩くのは体力的に大変なので、5kmのコースをチョイス。”Panoramic View Course”というネーミングも頂上を歩きながら景色を楽しめる印象をAidaさんに与えた。外国人客案内デスクによれば、8kmの高野三山巡りコースはアップダウンが激しい。ツアー運営を行っているのはKCCN (高野山異文化交流ネットワーク)。

Trekking tour menu

若年人口減少で困る地方、通訳案内士も高齢化

日本人ツアーガイドの河合さん(仮名)は60代男性。退職後に英語を使って訪日客と接したいと思い、和歌山県の高野山と熊野古道に特化した地域限定型の通訳案内士の資格を取得した。河合さんは以前に商社で働いていた経験があり、香港やシンガポールに渡航経験が豊富。Aidaさんとはシンガポールの話で盛り上がる場面もあった。河合さんは日本人に対してもガイドをしており、高野山では外国人客が多く、熊野古道では日本人客が多いようだ。河合さんは山登りが趣味で、日本百名山を登った経験があるという自慢話からツアーはスタートした。

補足:河合さんのような地域限定型の通訳案内士が導入されたきっかけには、通訳案内士の不足が問題にある。現状、通訳案内士の過半数が50代以上の年配層。高野・熊野特区通訳案内士の資格要件は、県が実施する研修の受講や現場実習を受ける必要があり、現場を重視したカリキュラムになっている。日本全国に適用可能な通訳案内士の資格要件は、筆記試験が中心で、必要なTOEICの点数も高く、資格を取得するハードルは高い。和歌山県の高野・熊野特区通訳案内士募集サイトを参照。

通訳案内士を増やすのと並行して、中国からのツアー旅行を中心に無資格ガイドが日本商品を訪日客に高額で売っている悪徳免税店からの多額のキックバックを得ている問題に対しての取り締まりも必須だ。2017年1月25日に放送された日本テレビ「NEWS ZERO」でもこの問題点を指摘。観光庁の資料「通訳案内士について」を参照。

日本の歴史を学んだことがないAidaさんに、河合さんが分かりやすく説明

最初に向かったのは金剛三昧院。鎌倉幕府を開いた源頼朝の正室、北条政子が夫の源頼朝と息子の実朝の菩提を弔うために建立した多宝塔が国宝に指定されていると河合さんと説明した。日本の歴史を勉強したことがないAidaさんに、河合さんは「鎌倉幕府」と「鎌倉大仏」を関連づけるなど、訪日客に分かりやすい説明を心がけていた。金剛三昧院に入ろうとしたAidaさんに対して、河合さんは境内の中に入るには拝観料が必要だと言うと、Aidaさんは外から国宝である多宝塔の写真を数枚撮った。寺院を後にすると、河合さんはハイキングコースである山道にAidaさんを案内した。

用意周到な河合さん、女人道の歴史を詳しく解説

山道に入ると河合さんはヒノキとスギの違いなど、山登りが大好きな性格からか、周りに見える木々や植物について詳しく説明し始めた。しばらくすると、山道を登りきり、ろくろ峠に到着した。今回のハイキングコースは「女人道」として知られ、高野山の周囲を尾根伝いに回るコースだ。河合さんの説明によれば、明治の初めまで、盆地である高野山内に女性が入るのは禁じられていた。そのため、女性のために高野山の七つの登山口には女人堂が建てられ、女人信者はその高野山の各入口を結ぶ道を歩いた歴史がある。「ろくろ峠」の名前の由来には、山内には入れない女人たちが「ろくろ首」のように首を長く伸ばして高野山内を覗いていたからだという説がある。河合さんは持参したクリアファイルから「ろくろ首」の絵が印刷された資料を取り出し、「ろくろ首」にまつわる逸話を話し始めた。日本のホラー映画「貞子」や「リング」が大好きなAidaさんは日本の妖怪について興味深そうに聞いていた。

nyoninmichi

手袋を差し出す河合さんのさりげない優しさに、Aidaさんが笑みを浮かべる

河合さんは説明が終わると、Aidaさんが寒そうにしているのを見て、Aidaさんに手袋を貸した。そして、Aidaさんが山頂から写真を撮っていると、河合さんは鞄から饅頭とみかんを取り出し、Aidaさんに差し出した。河合さんのさりげない優しさはAidaさんにとって印象的だったようだ。少し休憩をとった後、次の目的地である大門に向かって歩き始めた。

Aida at top of mt

ガイドからの説明だけでなく、歩きながらの会話も楽しみたかったAidaさん。しかし、会話は積極的ではない河合さん。

Aidaさんはゆっくり河合さんと話して歩きたかったが、山登り経験が豊富な河合さんは足が早く、Aidaさんよりもかなり先で1人で歩いてる場面もあった。河合さんは所々で説明をする以外はあまり会話を積極的にせず、Aidaさんからの質問に答えていた。Aidaさんの質問内容は、「今の僧侶はどのような生活を送っているのか」や「寺院は宿坊以外にどのようにお金を稼いでいるのか」など、歴史と共に現代の暮らしについて興味があった。

Aidaさんが挙げた課題の1つに、ガイドの英語力

河合さんはAidaさんからの質問に対して、女性は今では高野山内に入るのが許され、男性は結婚することができると回答。そして、精進料理を食べる僧侶もいれば、肉を食べる僧侶もいるようだ。近年では、日本の参拝者が減ったのに比べ、外国人観光客が急増した。高野山は観光業以外には林業も重要な産業で、金剛峰寺が多くの森を所有しており、高野山の中では最も影響力がある寺院であるとのこと。ただ、若者は和歌山市で働いている人も多く、人口も減っているようだ。河合さんは、英語でうまく表現できない言葉は、Googleの音声翻訳機能を使い、正しい情報をAidaさんに伝えるように心がけていた。

tour guide ahead of aida

西洋系トラベラーがハイキングする姿を数人、目撃する

大門に到着。河合さんが大門は高野山の入り口であるという簡単な説明をした後に、Aidaさんのために大門の前で写真を撮り、近くの木のベンチで休憩をとった。河合さんは再び、みかんと饅頭を取り出し、Aidaさんに差し上げた。そして、再び歩き始めると、後ろからオーストラリア旅行客など西洋系のバックパッカーが追い抜いていった。

その土地の情報に詳しいガイドは、情報源として重宝される

次に向かったのは最終目的地の女人堂。現存する唯一の女人堂は不動坂口にあるこの女人堂のみである。ハイキングの序盤にさしかかり、ハイキングの次に考えている「阿字観瞑想体験」はどこで受けられるのか、Aidaさんは河合さんに聞いた。すると、金剛寺での阿字観瞑想体験はオフシーズンなのでやっておらず、オフシーズンでもその体験を提供している恵光院も正月休みだと回答。河合さんは観光案内所に問い合わせ、阿字観瞑想体験ができる寺院を必死で探してくれたが、残念ながら今の時期は阿字観瞑想体験コースを行なっている寺院はなかった。

通訳案内士の約半数の年収は200万円以下。専業ガイドは資格保持者の6%ほど。経験が重視されるガイド業では参入障壁が高い。

女人堂に辿り着き、ハイキングのスタート地点に戻ると、Aidaさんは昼食に地元民がお勧めする店を教えてほしいと河合さんに聞き、河合さんは店探しも手伝ってくれた。河合さんは3時間のツアーを終え、自宅がある和歌山市に帰ることができたが、Aidaさんがレストランで会話に困らないようにと一緒に昼食を摂った。昼食時の会話では、高野山が人気になった背景は、高野山の開創1,200年を迎えた2015年にイベントが多く開かれ、国内外問わず、多くの観光客が高野山を訪れたことだと河合さんと語った。そして、地域限定型の通訳案内士について、年配層や英語教室で講師をする傍でガイドをしている主婦などが多いと河合さんが語り、若年人口減少が激しい地方だけに今後の通訳案内士の育成が課題になりそうだ。昼食代を支払い終えると、河合さんは高野山で行くべき場所として、金剛峰寺, 伽藍, 奥の院 を勧めてくれた。Aidaさんはガイド料金の2,000円をお支払いし、河合さんはお辞儀をして帰っていった。

補足:観光庁の調べによれば、ガイド業に就いている通訳案内士の約半数は200万円以下の年収を稼いでおり、兼業として通訳翻訳業や語学学校の講師などと共に生計を立てている人が多い。通訳案内士を取得する理由に「語学力を証明するため」が多く、通訳案内士の75%ほどは資格を活かしていない。ガイド就業者の50%以上は5年以上のベテラン。未就業者がガイド業に参入しない理由として、「一定の収益が見込めないため」がトップだ。専業ガイドは通訳案内士資格保持者の6%ほど。ガイド業は経験が重視され、新規参入が難しい就職市場になっている印象だ。今後は、事業モデルを改善し、新規参入者も実地経験が得られる仕組みが必要に迫られそうだ。観光庁の資料「通訳案内士の就業実態等について」を参照。

「 Kansai Thru Pass 」付属のクーポン券の利用で、観光地への入場料がお安く

Aidaさんが金剛峰寺に着くと「 Kansai Thru Pass 」に付いてきた拝観料が20%オフになる割引券を取り出し、通常500円する拝観料が400円になった。

補足:「 Kansai Thru Pass 」を購入すると、買い物, 食事, 観光地の入園料 などが割引になるクーポン券が付いてくる。Aidaさんは旅前から高野山内でクーポンが使える場所を知っていた。Aidaさんが参照したサイトはこちら

Kansai Thru Pass Coupon (Edited)

日本で最も広い石庭に感動しないAidaさん

金剛峰寺の境内には日本で最も広い石庭の「蟠龍庭」があることでも有名だが、Aidaさんは「庭といえば植物なのに、なぜ日本人は岩を手入れするのか分からない」と思ったようだ。Aidaさんが印象的に残っているのは、高野山を開創した空海(弘法大師)の人生が襖に描かれており、それぞれの和室を巡ることで、空海の人生を時系列で分かるようになっていることだ。

rock garden

2泊目は安さを基準に、高野山の中心から離れたゲストハウスを選択!

金剛峰寺から徒歩5分内にある壇上伽藍も行った後に、Aidaさんが高野山で唯一の安宿として見つけることができた高野山ゲストハウス「Kokuu」までバスで向かった。Aidaさんは日本を1人で旅することが多く、宿泊場所には「価格」以外にあまりこだわりはないようだ。

Aidaさんが調べた旅前情報によれば、高野山ゲストハウス「Kokuu」は日本最大のバックパッカー向け情報サイト、JAPAN BACKPACKERS LINK で「総合部門」の優秀賞と「地域コミュニティー&インバウンド貢献賞」の優秀賞を受賞したことや、建築のデザインを手掛けたアルファヴィル建築事務所が社団法人日本商環境設計家協会が決める JCD Design Award で銀賞に輝くなど、Aidaさんはゲストハウスの中にはどんな空間が広がっているのか、心を躍らせながら中に入っていった。

果たして、Aidaさんには数々の賞を受賞したこのゲストハウスでどのようなサービスや出会いが待っているのでしょうか?

最終章の次回は、Aidaさんがゲストハウスで出会った西洋系トラベラーとの会話をもとに西洋人が感じる高野山の魅力の発掘とゲストハウスの立ち上げ人、高井さんとの会話内容もお届けします。

以下、訪日客同行調査シリーズ、高野山編の全章まとめ

同じ調査場所で多数の訪日客に「点」でリーチするアンケート調査に比べ、訪日客同行調査は調査対象者を絞り、訪日客の行動パターンを「線」で理解することが可能です。「関西空港や心斎橋で多く見かける外国人観光客はその後、一体どこで何をしているのか」などの疑問に対して、訪日客の行動パターンを深く把握できる調査手法です。

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