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【インバウンド市場マクロ分析】過去5年間の訪日客数データから変化要因を分析【第1章】訪日客数と為替市場の相関性 〜 東アジア編 〜

今回は、インバウンド市場マクロ分析レポート、東アジア編。

第1回は、訪日客の旅行費用に直接的な影響を及ぼす為替市場の動向と訪日外国人客数の推移を比較し、過去5年間をおさらいします。為替市場を揺るがせた金融ニュースを経済情報サイトからピックアップし、時系列で追いながら解説します。

東アジアの中から、インバウンド業界で急激な成長を遂げた中国に着目し、過去5年間で中国人訪日客数に影響を与えた要因を分析し、今後の中国人の訪日旅行需要を占う上で、注視すべきポイントをまとめました。

中国がインバウンド市場のマスマーケットへと変化。今後の成長も期待。

スクリーンショット 2017-02-15 11.27.09東アジア各国の訪日客数の成長率

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注: 訪日外国人客数は日本政府観光局(JNTO)による2017年1月時点の推計
注:GDP成長率と人口は国際通貨基金(IMF)による2016年10月時点の推計

過去5年間、中国人訪日客数は東アジアの他国に比べて、最も高い成長率で伸び続けた。過去最高の年107%の成長率を遂げた2015年には中国が台湾と韓国を抜き、インバウンド市場の国別シェアは17%から27%まで成長した。しかし、2016年は中国人訪日客数の伸び率が28%まで減速。東アジア各国の中で、中国は過去3年間の円高インパクトが最も大きく、訪日客数の伸び率にも影響したと考えられる。ただ、中国のGDP成長率は6.59%を誇り、東アジアではトップ。中国の人口1人あたりの年間訪日回数は0.5%で、訪日経験が全くない中国人が多く、成長余地が大いに残るマーケットだ。

為替トレンドは2015年下半期を境に円安から円高に変化。中国の円高インパクトは東アジアで最大。

スクリーンショット 2017-02-15 11.29.58東アジア各国通貨の対円為替変化率

スクリーンショット 2017-02-15 11.19.46注:為替データはFX取引の大手オンラインブローカーのOANDAから月平均の対円レートを使用

注:パーセントがマイナスの場合は円安で、プラスの場合は円高を示す

過去5年間、東アジアの全ての通貨は22%〜31%ほど円安になり、日本のインバウンド市場を活性化させた大きな要因だと考えられる。特に2015年は過去5年間で最も円安だった年で、 中国, 韓国, 香港 からの訪日客数の伸び率は過去最高だった。

過去3年間の為替トレンドに着目すると、2014年以前から続いていた円安が2014年下半期からさらに加速し、2015年下半期を境に、円安から円高にシフト。2016年下半期には円高が是正傾向をたどり、3年前の水準ほどまで戻った。ただ、2017年1月からまた円高に回帰する兆しもあり、今後の為替トレンドには注視が必要だ。

注:香港は1米ドルの動きを7.75~7.85香港ドルに限定するペッグ制を採用しており、対円での香港ドルと米ドルの変化率は同一であるため、米ドルの為替レート変動の説明は香港ドルの変動を参照ください。

日銀の追加金融緩和が円安の主因。中国経済やトランプ米大統領の言動が為替市場にもたらす影響に注視。

過去5年間で為替市場を揺るがせた金融ニュースを時系列に以下のようにまとめました。

2013年4月4日:黒田バズーカ第1弾

就任以前から金融緩和に積極的だった黒田総裁が主導となり追加金融緩和策を決定し、政府目標を「金利」から「マネタリーベース」にシフト。ロイター通信によれば、ギリシャの債務問題を発端にユーロ圏諸国の国債利回りが高騰した当時、欧州中央銀行のドラギ総裁が長期流動性供給オペレーション(LTRO)で市中銀行に多額の長期資金を供給したのと匹敵する効果として、黒田総裁の「バズーカ砲」や日銀の「異次元緩和」などと呼ばれた。日銀による長期国債やETFの買い入れ額は市場予想の上限さえ上回ったことで、市場関係者にサプライズをもたらし、為替市場は円安にシフトした。

2014年10月31日:黒田バズーカ第2弾

黒田総裁が率いる金融政策決定会合は賛成5反対4の僅差で追加金融緩和を薄氷の採決で実施した。デフレマインド払拭の遅延リスクを回避するためと黒田総裁は発表。ブルームバーグによれば、追加金融緩和のタイミングが絶妙で、以下の3点から日米で金融政策の対照的な動きが鮮明になり、円安がさらに加速した。

  • 2014年4月1日から始まった消費税率の増加による景気回復への懸念追加
  • 追加緩和同日の2014年10月31日に世界最大級の年金基金年金、積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が発表した国内債券から株式や外債への資産構成比率の変更
  • 2014年10月29日にイエレン氏が議長を務める米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明で発表した労働市場の改善を背景に量的緩和第3弾(QE3)の終了

2015年6月12日:中国株の大暴落

大和総研によれば、中国株の過度な上昇を危惧した中国政府による信用取引への規制強化を契機に、個人投資家の信用買いで膨らませ続けた中国バブルが弾け、追加保証金の支払いに直面した投資家が中国株の売りを加速させた。中国政府は株価の下支え策として、暴落から2月後の2015年8月11日から2015年8月13日の3日間で米ドルに対して4.6%ほど切り下げ、米ドルにペッグしていた香港ドルとほぼ連動していた動きから乖離し、人民元は対円レートで他の東アジア通貨よりも速いペースで通貨安を招いた。

米国では、中国株ショックが発端で起きた世界同時株安がインフレ率を抑えることを不安視し、2015年9月に予想していた約10年ぶりの利上げは見送られ、2015年12月までずれ込んだ。マーケットエッジ株式会社によれば、2015年12月時点では金融当局者の間で2016年内に4度の利上げが想定されていたが、2016年3月時点にはその利上げ回数が2度まで下方修正された。「追加金融緩和に消極的な日銀」と「追加利上げに消極的な米連邦準備銀行」のイメージが鮮明になり、円高ドル安に振れた大きな要因だと考えられる。

2016年1月29日:日銀のマイナス金利導入

日銀の金融政策決定会合は5対4の僅差でマイナス金利の導入を決めた。日銀は市中銀行が新たに日銀に預ける当座預金に対してマイナス0.1%の金利を適用。日銀がマイナス金利を発表した後、ドル円は一旦円安に振れたものの、円高は続いた。ニッセイ基礎研究所によれば、マイナス金利は銀行の利益を犠牲にし副作用を伴うため、マイナス金利の拡大による追加緩和の余地が減ったと解説。日経新聞によれば、以下の3点により海外の円高要因が日本国内の円安要因よりも強かったことから、日銀のマイナス金利導入後も円高が続いたと考えられる。

  • 中国不安や原油安などで新興市場の減速への懸念
  • 米利上げに関する不透明感
  • 米財務省が作成する為替政策の監視リストに日本が加わったこと

2016年6月23日:英国の欧州連合離脱ショック

国民投票で英国は欧州連合からの離脱を決定した。対外純資産額が世界第1位である日本の通貨「円」は安全資産としてみなされており、英ポンドが売られ、円高への圧力が強まった。そして、米連邦準備理事会のイエレン議長は英国の欧州連合離脱による米経済への影響を注視して、2016年内に想定していた2度の利上げはひとまず棚上げにしたことも、円高に振れた理由として考えられる。

2016年11月9日:米大統領選にトランプ氏が勝利

日経新聞によれば、トランプ氏の勝利で巨額減税や財政拡張による景気押し上げ効果の期待から将来のインフレ率にポジティブな影響を与え、米連邦準備銀行の利上げペースが想定よりも速まるという観測から円安ドル高に為替トレンドは変化した。2016年は利上げペースが遅れたが、米連邦準備銀行は2016年12月に年内唯一の利上げを実施した。

米大統領選挙後、トランプ氏は過激発言を一旦封印したことで市場は好感したが、大統領に就任した2017年1月にはトランプ大統領が「為替を操作して通貨安に誘導している」と日本の為替政策を批判した発言もあった。今後、米連邦準備理事会のイエレン議長の超低金利政策から正常化へ向けた動きや、トランプ大統領が日米両国の金融政策に対して圧力を強めていくかどうかが、注目される。

次回は、日本政府観光局(JNTO)が公開している報道発表資料や市場動向トピックスをもとに、過去5年間の中国からの訪日客数の統計をおさらいします。インバウンド市場を成長させた為替以外の構造的な要因を分析します。

株式会社フリープラスではインバウンド専門の旅行会社という特性を生かし、訪日客の旅行現場での声をもとにしたミクロデータを得意としております。今回のように、日本政府観光局の訪日客数や観光庁の訪日客消費動向調査などのマクロデータを用いて、包括的な定量分析と定性分析をすることも可能です。

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