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【インバウンド市場マクロ分析】過去5年間の訪日客数データから変化要因を分析【第2章】中国人訪日客が増え続ける理由とは 〜 東アジア編 〜

今回は、2012年から5年連続で訪日客が増え続ける構造的要因を日本政府観光局(JNTO)の報道発表資料からの情報をもとに分析します。前回は、訪日客の旅行費用に直接的に影響を及ぼす為替市場について解説しました。今回は、JNTOの月次資料で中国人訪日客が増える要因として言及されたキーワードを観光庁の訪日外国人消費動向調査結果などの定量データと掛け合わせ、弊社独自の分析から、過去5年間の中国人観光客の動向を解説します。

中国人訪日客に関して、以下の質問を弊社独自の観点から解説します。

  • 訪日中国人観光客数は、何月が最も多いのか?
  • 訪日中国人観光客は、中国のどの地域から来ているのか?
  • 訪日中国人観光客はなぜ増えたのか?
  • 中国人観光客は海外旅行にどの国に行くことが多いのか?
  • 今後も訪日中国人観光客は増え続けるのか?

前章の記事は以下におまとめしております。

訪日中国人観光客数は、何月が最も多いのか?

中国人訪日客数は夏休み期間の7月〜8月が最多。学校休暇も祝日もない11月〜12月は閑散期。

図1

注:JNTOの訪日外客数をもとに作成。

中国の学校では7月〜8月に約7週間の夏休みがあり、家族連れの中国人訪日客が多い。家族旅行の目的地として、東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどのテーマパークや沖縄のビーチリゾートが人気だ。そして、10月1日から始まる1週間の大型連休である国慶節には、旅行の前倒し需要も含め、9月〜10月は比較的に訪日客数が多い月になっている。また、夏休みと国慶節のハイシーズンの間となる9月に航空券を比較的安く購入し、訪日する中国人観光客も多いようだ。3月〜4月は清明節の休暇を利用した桜需要があり、訪日客が比較的多い。11月〜12月は学校休暇や祝日が全くなく、1年間で中国人訪日客が少なくなる傾向にある。

春節に親戚や祖父母と過ごすより、海外旅行を楽しむ中国人家族が増加。

国慶節と同様、1週間の大型連休である春節(旧正月)は年によって1月もしくは2月に変わる。春節に合わせて学校では冬休みが4週間ほどあることが一般的である。中華圏の風習で春節に都市部の出稼ぎ労働者が地元に戻って家族と過ごす印象があるかもしれないが、ブルームバーグによれば、最近では海外旅行と国内旅行との値段差が狭まったこともあり、春節期間の交通渋滞や人混みを避けたい中国人家族の海外旅行が増えているという。2016年の旧正月は2月だったが、2017年の旧正月は1月だった。そのため、2017年1月の月別中国人訪日客数は前年同期比で32.7%と大幅に増加したと考えられる。

訪日中国人観光客は、中国のどの地域から来ているのか?

2013年から中国人訪日客の在住地割合に大きな変化はなく、訪日客が中国各地で満遍なく増えている。

図2

注:観光庁の訪日消費動向調査の属性データをもとに作成。

観光庁の訪日外国人消費動向調査によれば、北京と上海の大都市からの訪日客は中国人訪日客の約40%を占め、2013年からその割合はほとんど変わっていない。過去5年間で中国人観光客は伸び続けていることから、訪日客は中国各地から満遍なく増えていることが分かる。ただ、2013年から2015年にかけて、北京と上海からの訪日客の割合が微減したものの、2016年には微増した。今後、中国国内の地域ごとで経済格差が広がった場合、中国人訪日客の在住地割合に大きな変化が生じることも考えられる。2015年の原油安や中国株ショックなど、中国国内の経済動向が訪日客数に影響を及ぼす可能性も十分にある。

日本に来る中国人観光客はなぜ増えたのか?

中国人訪日客増加要因①:航空機の提供座席数の増加

オープンスカイ協定を契機に、規制緩和からの航空業界の価格競争が激化。

米国が1995年から進めた二国間でのオープンスカイ協定を契機に、EUでは1997年に単一航空市場が形成され、ASEANでもEU型の単一航空市場を目指している。世界各国で進む航空業界の規制緩和の流れの煽りを受け、2010年に日本が米国とオープンスカイ協定を締結し、その後もアジア・オセアニア地域を中心に二国間のオープンスカイ協定を進めた結果、日本に離発着する国際線の便数が緩和された。

既存路線の増便と新規路線の就航が中国から日本へ行く利便性と供給量を増やす。

JNTOの月次資料によれば、中国人訪日客数の増加の要因として航空座席供給量の拡大も理由として挙げられており、既存路線の増便や新規路線の就航について言及されている。既存路線の増便は北京や上海などの中国の大都市圏からの訪日客の利便性を向上され、新規路線では中国の地方都市からの訪日客の利便性が向上させた。

訪日旅行の抑制要因だった東日本大震災や尖閣諸島国有化問題による中国人観光客の忌避感が薄れ、2014年9月を境に訪日客増加に反転した。

2011年3月11日に起きた東日本大震災や2012年9月11日に日本政府が発表した尖閣諸島の国有化により、中国人観光客の日本に対する忌避感が強まり、2012年から2013年にかけて航空会社は日中路線の縮小を強いられた。2012年9月の尖閣諸島国有化問題からちょうど1年後の2013年9月を境に前年同期比を下回っていた中国人訪日客数のトレンドが反転し、2013年から2016年まで1度も前年同期比を下回ったことがなく、各月の月間中国人訪日客数が過去最多記録を更新し続けている。JNTOの月次資料によれば、日中航空路線の拡充が中国人観光客の増加要因として言及された回数(年間総括の解説になる12月を除く)は、2014年に6回, 2015年に7回, 2016年に5回 と日中間の航空座席供給量が増え続けている。

  • 2016年1月:深圳 – 成田線, 成都 – 成田線, 南通 ‐ 名古屋線 等の拡充
  • 2016年2月:春秋航空日本の初となる国際線の就航( 重慶 – 成田線, 武漢 – 成田線 )
  • 2016年5月:航空座席供給量の拡大
  • 2016年6月:日中間の地方航空路線の拡大( 瀋陽 – 静岡線, 合肥 – 名古屋線 )
  • 2016年8月:吉祥航空の南京 – 関西線の新規就航やチャーター便の運航

過去5年間、航空運賃は下降トレンド。原油価格下落や航空業界の規制緩和が要因か。

図3

スクリーンショット 2017-02-24 16.23.18注:往復航空(船舶)の平均消費額は単純平均から算出。訪日外国人消費動向調査の集計結果を参照。

観光庁の訪日外国人消費動向調査結果によれば、東アジア各国から日本への往復航空(船舶)の平均消費額は現地通貨ベースで過去5年間で下降トレンドを続けている。規制緩和に後押しされて格安航空会社(LCC)の就航が増えたこと, 航空座席供給量の拡大によるスケールメリット, 前回の記事で解説した円安トレンドなどが要因だと考えられている。2014年下半期からは原油価格が大幅に下落し、往復航空(船舶)運賃も下がり続けている。過去5年間の往復航空(船舶)運賃の下げ幅は、韓国, 台湾, 香港, 中国 の順に大きい。

原油価格下落の背景には、米国のシェール革命, OPEC加盟国の協調減産の先送り, イランの原油輸出再開, 新興国経済の先行き不安 などの一連の出来事があった。

米国では石油輸出を40年間禁止していたが、今まで採掘が難しかったシェール層と呼ばれる岩石の隙間に含まれる天然ガスや石油が水圧破砕法の開発によって可能になり、2015年12月18日に米議会上院で石油の禁輸解禁を盛り込んだ法案が可決された。それに伴い、供給高になった石油の価格が大幅下落し、石油や天然ガスに依存する新興国や株式市場の大暴落に見舞われた中国の経済先行き不安が市場で広まり、新興国の石油需要が減速すると懸念された。2016年1月16日には石油輸出国であるイランに対する経済制裁が解除されたことや、OPEC加盟国が減産を見送り続けたこともあり、石油価格はさらに下がった。減産に対して消極的だったサウジアラビアが態度を軟化させたこともあり、2016年9月28日にOPEC加盟国は8年ぶりに減産に合意した。それ以降、石油価格は上昇に転じたが、未だに大幅下落する以前の水準に比べて51%ほど低い。

中国人訪日客増加要因②:大型クルーズ船の寄港数増加

外国人クルーズ船客は3年間で約11倍以上の成長を遂げ、東アジアの訪日客の約11%を占める。

図4

スクリーンショット 2017-02-24 18.20.17注:国土交通省の報道資料をもとに作成。2016年は推定値。

クルーズ船利用に関する観光庁の報道資料には訪日クルーズ船客数の国別データは公開されていないため、外国人クルーズ船客の全てが日本周辺の東アジア諸国( 韓国, 中国, 台湾, 香港 )からの訪日客と仮定した。2013年から2016年の4年間で、外国人クルーズ船利用客が東アジアの訪日客に占める割合は3%から11%まで成長した。2016年の東アジアからの訪日外国人の総増加客数のうち、約27%はクルーズ船客数の増加が寄与している。そして、外国人クルーズ船客の増加に応じて、日本への寄港回数も増加している。1回の寄港に対する外国人クルーズ船客数が2013年の174人から987人に増加しており、大型クルーズ船の寄港が増えたと考えられる。

東アジアのクルーズ船利用率、航空機利用率よりも速いペースで増加。

現時点、日本政府は2020年の訪日外国人目標を年間4,000万人と掲げており、そのうち外国人クルーズ船客の目標は年間500万人だ。もし政府目標が達成されれば、2017年から2020年までの3年間で外国人クルーズ船客は年平均26%以上の伸び率で成長するという試算だ。東アジアからの訪日旅行者が訪日外国人客の総数に占める割合は2016年で約73%なので、東アジアからの訪日旅行者のクルーズ船利用率は2016年の11%から2020年には17%まで上昇する可能性もある。

2016年9月〜10月に台風の影響によるクルーズ船のキャンセルが多発。

JNTOの月次資料によれば、2016年9月〜10月には台風等による影響でクルーズ船のキャンセルが増え、中国人訪日客数の伸びを抑制する要因となった。東シナ海を通過した台風18号では1万人以上の機会損失となった可能性があるという。夏休みと国慶節がある7月〜10月にかけて台風が去年よりも多くなれば、中国人訪日客のクルーズ船需要に大きな影響を与える可能性はある。

2012年頃から訪日クルーズ船のターゲット層が富裕層から一般層へシフト。2015年1月1日から施行された外国人クルーズ船客に対する入国審査手続きの簡素化も後押し。

2007年頃にイタリアに本社を構えるコスタ・クルーズが始めたとされる中国からの訪日クルーズ船ツアーは当時、顧客のターゲット層は富裕層だった。しかし、実際に中国からの訪日クルーズ船利用者が大きな伸びを見せ始めたのはチャーター運航が増え始めた2012年頃で、ターゲット層は一般層へとシフトしていった。JNTOの月次資料によれば、主に中高年の夫婦や女性グループを中心に訪日クルーズ船は人気だという。中国人訪日客が航空機で入国する場合には、短期滞在ビザが必要になるが、クルーズ船での入国の場合は、2015年1月1日から施行された「船舶上陸許可制度」により、「船舶観光上陸許可書」があれば事実上ビザ無しで中国人客が容易に訪日できるようになった。

訪日クルーズ船の実態に関する詳細は、以前に INBOUND RESEARCH .jp にて取り上げております。以下のリンクからご覧になれます。

中国人訪日客増加要因③:消費税免税制度改正

2015年の流行語大賞に輝いた中国人観光客の「爆買い」、2014年10月1日から始まった免税品目の拡大と免税対象額の引き下げが後押し。

2014年10月1日から消費税免税制度が改正された。改正前は、免税対象品目は 電化製品, 衣類, 宝飾品 などの消耗品以外の「一般物品」のみで、免税対象金額は1万円(税抜)からだ。改正後は、免税対象品目が 食品, 飲料, 化粧品, 薬品 などの6ヶ月以内に消費可能な「消耗品」も加わり、免税対象額は「一般物品」よりも低い、5,000円(税抜)からとなった。ただし、販売品目が免税対象になるには、「消耗品」と「一般物品」の販売額がそれぞれの免税対象額を超える必要があり、合算することはできない。ショッピングを観光目的とする中国人観光客にとって、消費税免税制度の改正は中国人の訪日需要を押し上げるプラス要因になったと考えられる。

2016年4月8日の中国政府による税関審査強化が「爆買い」を抑制。購入商品の大きさも縮小傾向。

中国政府は中国人訪日客の「爆買い」が自国通貨の流出に繋がると危惧してか、2016年4月8日から海外から持ち込む商品に対して関税の引き上げを行い、空港での税関審査が厳格化させた。特に日本商品の転売目的で中国から訪日するソーシャルバイヤー、中国人訪日客の中には中国側での税関審査を怖れて、空気清浄機やベビーカーなどの大きめな商品よりも日用品などのスーツケースに容易に収納できる小さめな商品の方が税関審査で引っかかるリスクが小さいと考える方も多いという。

中国人ソーシャルバイヤー(代理購買者)に関する詳細は、以前に INBOUND RESEARCH .jp にて取り上げております。以下のリンクからご覧になれます。

中国人訪日客増加要因④:プロモーション効果

JNTOによるプロモーションのターゲット層が、大都市圏から地方都市にシフト。

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注:観光庁の中国市場プロモーション方針から抜粋

ビジット・ジャパン・キャンペーンの一環として、JNTOが中国で積極的に実施するプロモーションも中国人の訪日旅行需要を引き上げた要因として考えられる。2014年から2016年にかけて、訪日プロモーションの重点ターゲット層も中国三大都市圏(北京・上海・広州)から地方都市へと中国各地に渡るようになった。2016年の中国市場プロモーション方針として、JNTOは市場が成熟しつつある中国三大都市圏においては、重点デスティネーションとして定めている九州地方への送客ならびに個人旅行需要の促進をし、瀋陽・重慶・佛山などの地方都市においては旅先として日本そのものの認知度向上と訪日ツアー商品の販売促進を目的としたプロモーション事業が行なった。

2015年1月19日から個人観光に対する数次ビザ要件が緩和され、訪日リピーター向けのプロモーションに注力。

2015年1月19日から中国人観光者に対する数次ビザの経済要件が緩和され、数次ビザの対象者が、これまでの「十分な経済力を有する者とその家族」から「一定の経済力を有する過去3年以内に日本への短期滞在での渡航歴がある者とその家族」に引き下げられた。主な変更点として、これまで数次ビザの取得には中国人観光客の所得要件が年収25万元(約410万円)以上から年収10万元(約165万円)以上に大幅に緩和された。そして、年収25万元以上の人々に対しては、最初の訪日時に沖縄もしくは東北三県( 岩手県, 宮城県, 福島県 )で1泊以上する宿泊予約の提出が必要だったが、この入国地域の制限が撤廃された。数次ビザを一旦取得すると、有効期間の3年間以内に何度も訪日することが可能になる。個人観光ビザが緩和されたことで、団体旅行で初めて訪日した旅行客が2回目以降は個人旅行で再訪日しやすくなった。従って、JNTOも中国の大都市圏在住者を中心に増える訪日リピーターを対象としたポップカルチャーや季節のイベントなどの趣向性に富んだ日本の魅力の発信に注力している。

訪日団体ツアーは価格競争の激化からか、悪徳免税店ツアーが90%以上を占める。中国では団体旅行離れが加速。

団体比率

注:観光庁の消費動向調査をもとに作成。観光目的の団体比率を使用。

弊社の中国担当者によれば、訪日団体ツアーの旅程に悪徳免税店が組まれる可能性は90%以上で、地方都市においてはほぼ100%の状態だという。中国で初となる旅行業界に対する本格的な法律、「旅遊法」が2013年10月に施行された。この法律により、旅行先で契約先のお土産店からリベート収入をあてにした強引なショッピングの斡旋は禁止されたものの、違法ガイドが中国人消費者の心理を巧妙に操るような悪徳免税店ツアーが依然として多い実態だ。この悪徳免税店ツアー問題も、中国の団体旅行離れを加速させている一因だと考えられる。JNTOも現地旅行代理店による販路の拡大よりも、Ctrip(中国最大のOTA)や微博(中国版の Facebook)などのオンライン媒体を利用して、中国人の個人旅行需要を促す活動に比重を高めている。

中国の悪徳免税店ツアーに関する詳細は、以前に INBOUND RESEARCH .jp にて取り上げております。以下のリンクからご覧になれます。

訪日リピーターが多い都市においては九州や東北を重点的に宣伝し、訪日初心者が多い都市においては 旅館, 温泉, 桜 などの画像を用いた広告で訪日意欲を創出。

地方誘客強化の一環として、JNTOは重点デスティネーションである九州への旅行を促進するプロモーションに加え、東北地方への興味喚起を目的としたプロモーションも実施している。最近の例だと、JNTOの微博・微信や有力なインフルエンサー(KOL: Key Opinion Leader)が「日本食を食べて九州へ行こう!」キャンペーンを告知し、北京市内 27 か所の日本食レストランで2016年8月1日から31日までキャンペーンが実施した。九州観光推進機構のキャラクターである「キューちゃん」も九州旅行への応募を呼びかけた。他にも、東北地方の認知度向上のため、紅葉の旅(2016年10月出発)雪国の旅(2017年1月出発)のモニターツアーを実施する等、一般客とインフルエンサーを含め、合計6 名(3 名/回)が招請された。ツアー中のビデオがウェブコンテンツとなり、インフルエンサーやJNTOのホームページを通じて露出を図った。他にも、JNTOのウェブサイト上で外国人旅行者と日本人の3名が登場する4コマ漫画「 Enjoy Japan! 」を隔週連載し、中国人観光客に対して日本独自の文化やマナーの認知度を上げる試みも行われている。

九州プロモーション例:「日本食を食べて九州へ行こう!」キャンペーン

スクリーンショット 2017-02-26 13.10.58日本の文化とマナーの紹介例:JNTOのウェブサイトで隔週連載されている「 Enjoy Japan! 」

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中国人訪日客増加要因⑥:円安

リーマンショック後から進んだ円高が2013年から反転し、円安トレンドへ。今後はトランプ米大統領の言動や米連邦準備理事会のイエレン議長の金利政策に対するコメントに注目が集まる。

海外旅行費用に直接的な影響を及ばす為替市場は訪日市場の動向を占う上で、注目すべき指標だ。過去5年間では、リーマンショック以後から米国のゼロ金利政策により円高トレンドになったが、2013年からは黒田日銀総裁が主導した大幅な金融緩和により円安トレンドに反転した。ただ、2016年には英国のEU離脱問題があり、概ね円高に振れた年になった。

過去5年間の為替分析や今後の円高リスク関する詳細は、以前に INBOUND RESEARCH .jp にて取り上げております。以下のリンクからご覧になれます。

中国人観光客は海外旅行にどの国に行くことが多いのか?

香港とマカオを除いて、過去5年間の中国人訪問者数で日本は第8位からタイと韓国に次ぐ第3位に浮上。

図5

注:各国の観光局のデータから作成。米国とフランスは2016年の年次データをまだ公開していない。

もちろん、中国人観光客は毎年のように日本へ旅行するというわけではなく、他の国でも海外旅行を楽しんでいる。日本のインバウンドの未来を占い上で、日本が海外各国と比べて、相対的な競争力があるのか、把握する必要がある。2016年の年間中国人訪問者数は、香港とマカオがそれぞれ4,278万人と2,046万人で、次いで中国人観光客が多いタイとは3倍ほどの差をつけている。しかしながら、香港の伸び率は前年比で6.7%減少し、マカオは0.2%の微増だった。中国人訪問者数で上位10カ国の中では、香港と台湾を除いて、全ての国が前年比でプラス成長を達成した。

香港:香港反政府デモ以降、対中感情の悪化で香港の観光産業にも打撃。

かつては中国から香港・マカオへの旅行は商用目的や団体旅行目的以外には禁止されていたが、2003年から始まった Individual Visit Scheme(IVS)により指定された中国の都市の住民は個人旅行で香港・マカオに行くことが可能になり、香港への中国人観光客数は上昇の一途をたどっていた。

しかし、2014年9月26日から始まった香港反政府デモにより、香港市民の対中感情の悪化が表面化した。2014年をピークにし、中国人訪問者数は2年連続でマイナス成長だった。英エコノミスト社の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」によれば、すでにIVSで指定されている中国の49都市から増やさない方針を香港政府は2014年に固めた。そして、2015年4月には香港のすぐ隣にある深圳市の住民に対して香港への通行は自由に行き来できる制度があったが、香港政府はそれを週1回のみに制限した。香港への中国人訪問者が減少したことで、ホテルの稼働率や小売店売上は落ち込んだことから、中国からの香港への日帰り客や高額の買い物をする客に絞って増やすべきだという声もある。

香港の南華早報によれば、中国人観光客が香港を敬遠する他の理由として、香港はショッピングや食べ物以外の観光スポットに乏しく、2016年の国慶節(10月1日〜)に短期滞在ビザを免除した モロッコ, チュニジア, トンガ へ行った中国人訪問者数は例年の4倍で、観光ビザを緩和したロシアや米中間の航空便が増えたアメリカへの訪問者も増えたという。

マカオ:中国政府の汚職防止に対する動きやマカオ政府のビザ発給に対する規制強化で中国人観光客が減少。

香港と同様、マカオへの中国人訪問者数は2014年にピークを迎え、2015年は前年比で4%減少し、2016年には0.2%微増した。香港の南華早報によれば、中国本土からマカオへ訪れる観光客が減った理由として、マカオ政府のビザ発給に対する規制強化、中国の汚職や自国通貨の流出に対する規制強化、そして人民元安などが挙げられるという。

2014年7月1日に施行されたルールによれば、中国人観光客の最大滞在日数は7日から5日に減り、30日以内に再入国する場合は、最大滞在日数は2日から1日に減った。他にも、ギュンブルを主力とする観光産業に依存してきたマカオでは、中国の汚職防止に対する動き、マカオで中国の銀行が発行するATMカードを利用した際の1回あたりの引出可能額の引き下げ、そして香港ドルとペッグしているマカオ通貨のパタカが人民元に対して上昇したことなどが中国人観光客を減らした要因だと考えられる。

タイ:「訪日激安ツアー」のカラクリと似た、「無料ツアー」が中国からタイへの団体客を増やしている。

香港とマカオに次いで、中国のアウトバウンド需要を享受しているのはタイだ。香港の南華早報によれば、タイが中国人観光客に大人気な理由は値段も飛行時間も手軽である点だ。そして、免税店からのキックバックをあてにする訪日激安ツアーに似て、タイは「無料ツアー」が人気だ。その団体ツアーの利用者は、タイで中国人が経営するお土産店に誘導され、法外な値段で買い物をするように勧誘を受けるがほとんどだ。

タイ政府は2016年9月からタイに訪れる中国人団体ツアーに対して取締りを強化し、中国人団体客に対して1人あたり1,000バーツ(約3,200円)の入国料金と1日あたり最低で1,000バーツの料金を課した。すると、2016年10月〜12月の3ヶ月間で中国からのタイへの訪問者数が前年同期比でそれぞれ 16%, 30%, 10% ずつ減少した。中国人観光客が大幅に減少したことで、タイ政府は2016年12月1日から2017年2月28日までの3ヶ月間の期間限定で、一次観光ビザの料金(通常料金:1,000バーツ)を免除し、アライバルビザの料金を2,000バーツから1,000バーツに引き下げた。現在、中国やインドを含む18カ国からの個人旅行者はアライバルビザを入国時に取得する必要がある。

韓国:2015年はMERS問題により訪韓中国人が減少、2016年は回復を見せるが、2017年からは中韓関係の冷え込みで中国人訪問者が減る可能性も。

2015年5月頃から中東呼吸器症候群(MERS)の感染が拡大した韓国は、訪韓中国人客数が2015年は前年比で0.02%減で、中国人訪問者が急増した日本やタイに比べて、引けを取った。しかし、2016年になると、韓国旅行を自粛していた中国人客が戻り、訪韓中国人客数は前年比で16.1%の成長を遂げた。特に、韓国の済州島は空路も海路も中国人観光客に対してビザを免除していて、上海発クルーズ船ツアーに済州島が組まれることも多い。ただ、一部の中国人観光客は済州島から中国に帰国する際、済州島で購入した商品をスーツケースに収納するため、その商品の包装を大量にバスや空港の公共スペースに捨てていたことが社会問題化するなど、韓国政府は済州島へ訪れる中国人観光客に対する入国審査の厳格化に追われた。

朝鮮日報によれば、韓国でも免税店などのショッピングからのキックバックをあてにした訪韓激安団体ツアーが市場に出回っている。韓国政府は、訪韓団体ツアーの質の向上や中国人の訪韓需要の喚起のため、300万ウォン(約30万円)以上の高額なパッケージツアーなどの旅行商品を利用して韓国を訪れる中国人観光客に対して、5年間の期間中、何度でも韓国に入国できる数次ビザの発給をスタートする見通しがあるという。

しかし、ソウル聯合ニュースによれば、2016年7月8日に韓国が北朝鮮のミサイルを対処するために米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を在韓米軍に配備することを最終決定したと発表すると、中国政府は自国の防衛システムへの脅威だと反発し、「報復」として中国現地の旅行会社に韓国旅行ツアーを2割減らすよう、指導した。中国政府は韓国の航空会社に対して中国と韓国を結ぶチャーター便の運航を不許可にしたり、中国メディアも反韓感情を煽った。中国現地の旅行会社は韓国ツアーのPRに対して消極的だったこともあり、今年の春節に訪韓した中国人団体客が去年に比べて半減したという韓国の旅行関係者の声もある。

台湾:民進党政権の発足で、中台関係は悪化。中国は台湾への旅行者数を制限し、台湾の観光産業は大打撃。

2016年5月から、中国との関係を重視してきた国民党政権に代わり、民進党の蔡英文政権がスタートした。蔡英文総統は中国と台湾が「一つの中国」という考え方をコンセンサス(共通認識)として認めないスタンスをとったことに対して、中国側は台湾の政治や経済に対して圧力をかけ始めた。

中国人が台湾へ渡航する場合には、中国側と台湾側の両方から許可が必要なため、中国から台湾へ渡航する中国人観光客の人数を意図的に制限することができる。ロイター通信によれば、台湾への旅行者数を減らすように中国政府は中国現地の旅行業者に命じられた事例や中国政府が台湾旅行の許可件数をカットした事例などがあることから、中国が自国の観光客を台湾政権に対する交渉材料にしているという台湾の旅行関係者が指摘する声もある。2016年の台湾への中国人観光客は前年比で16.1%減少し、減少幅は中国人訪問者数が多い上位10カ国の中では最大だった。

今後も訪日中国人観光客は増え続けるのか?

日中関係が悪化したら、再び中国人観光客が減る可能性も。

香港, 韓国, 台湾 が中国との関係性を悪化させたことで、中国人観光客が減ったことを考えると、日中関係が悪化すれば、日本のインバウンド市場に対して悪影響を及ぼす可能性が高い。過去に、2012年9月に起きた尖閣諸島国有化問題により中国では対日感情が高まり、中国からタイや韓国に訪れる観光客が大幅に増えたのに対して、中国人訪日客が減ったこともあった。ただ、日本のインバウンド市場は 香港, 韓国, 台湾 に比べて、中国人客が訪日外国人客の総数に占める割合が低く、日本の観光産業は中国に偏って依存しておらず、中国が日本の観光事業に与える影響は東アジアの他国と比べて低い。

中国人が行きたい国、日本が第1位。東アジアの他国に比べ、日本の観光資源の豊富さは魅力。

米系大手旅行情報サイト「トラベルズー」の調査によれば、2015年に中国人が訪れたい旅行先として、日本は2014年から2年連続で首位だった。中国人の潜在的な訪日意欲が高く、円高などの一時的な要因で中国人訪日客数に変化するが、今後も中国人訪日客が増えると予想される。日本の文化やライフスタイルを体験したい中国人が増えており、東アジアの他国に比べて、日本の観光資源の豊富さは魅力的であろう。

日本以外のアジア諸国と中国との関係性の改善や悪化で、中国から日本へ訪れる観光客数が大きく変わる可能性も。

中国人の潜在的な訪日意欲が高いことから、中国政府が具体的に中国人訪日観光客に対する抑制策を打ち出さない限り、中国人観光客数は自然増する可能性は高い。ただ、香港, 台湾, 韓国 と中国との関係性の悪化とタイの「無料ツアー」に対する取締り強化から、中国人が旅先として日本に選んだ可能性もある。今後、東アジアの他国と中国との関係性が改善されれば、日本への旅行需要を抑制する要因になる。

日本が悪徳免税店ツアーの取締りを強化すれば、短期的には訪日客が減る可能性も。長期的には、団体離れは日本経済に対してプラスに作用する可能性も。

弊社の中国担当者によれば、日本政府が法外な値段で日本の商品を販売する悪徳免税店ツアーに対しての目立った取締りを行なっているとは聞いていないという。今後、日本政府がこのような訪日激安ツアーに対して取締りを強化した場合には、タイと似て、中国人訪日客数が減る可能性も十分にある。ただ、訪日激安ツアーは中国人団体客の行動が制限し、ショッピングは中国人が経営する免税店で行われることがほとんどだ。その免税店の一部の利益が中国のランドオペレーターに還元される仕組みになっており、中国人観光客の買い物が日本国内の経済に及ばす波及効果を妨げている。ただ、中国人旅行者は団体旅行から個人旅行にシフトしており、日本政府が訪日激安ツアーに対する取締りを強化したとしても、長期的には個人旅行者の増加から中国人訪日客の総数が増える可能性もある。中国人個人旅行者が悪徳免税店以外の店で買い物をすれば、日本経済への波及効果は激安訪日ツアーよりも高い。

以上、【インバウンド市場マクロ分析】過去5年間の訪日客数データから変化要因を分析【第2章】中国人訪日客が増え続ける理由とは 〜 東アジア編 〜をお届けしました。

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