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【宿泊シリーズ】訪日外国人向け「農泊」に注目、「農家民宿爺爺」の事業主にインバウンドの地方観光について聞いてみた。

宿泊シリーズ第4回の今回は、民泊業界で地方振興の観点から今、注目を集めている「農泊」(ファームステイ)を特集しました。兵庫県姫路市で「農家民宿爺爺」を営む一般農家の坂口 博幸さんに農家民宿の開業までの経緯やインバウンドの農業体験や地方観光についてお聞きしました。

地方振興の観点からインバウンド需要を取り込んだ日本型グリーン・ツーリズムがより重要に

日本における「農泊」はヨーロッパを中心に普及したグリーン・ツーリズム(アグリ・ツーリズムとも呼ぶ)の日本版として注目を集めています。商業化された観光地を巡る大衆向けのマス・ツーリズムとは異なり、グリーン・ツーリズムは都市居住者などが農村で休暇を過ごすことで都市と農村との住民同士の交流を主な目的としています。

環境のサステナビリティ(持続可能性)を考慮したエコ・ツーリズムの一例として、有機栽培農家のオーナーが都市居住者などのボランティアから労働力を得る代わりに食事と宿泊を無料で提供するマッチング・サービスの「ウーファー・プログラム」はイギリスから始まり、世界各国に広がっています。ただし、日本型グリーン・ツーリズムの課題として、長期休暇が取りにくい労働環境のため日本人旅行者は日帰りや短期滞在が多く、ヨーロッパのような長期滞在型のグリーン・ツーリズムは根付きにくい特徴があります。そのため、日本人旅行者だけでなく、滞在期間が長い傾向にあるインバウンドの需要も取り込むことが重要になりそうです。

延べ客室床面積の緩和が「農泊」の最大のメリット、旅館業法規制の緩和で開業コストが低減

前回特集した農泊の立ち上げ支援を行う小笠原 正一さんによると、通常の民泊は厚生労働省が管轄であるのに対し、農家民宿と農家民泊は農林水産省の管轄になっており、一般的な簡易宿所に比べて規制が緩和されており、開業しやすいメリットがあるそうです。簡易宿所型民泊は建築基準法上の33㎡(20畳)以上の延べ客室床面積を満たす必要があり、旅館業法等の各種法令が適用されます。

その一方で、農家民宿は延べ客室床面積が33㎡(20畳)以下でも「農林漁業体験民宿」として開業する事が可能で、建築基準法上も「旅館」に該当せずいくつかの手続きが不要であったり、避難経路や火災報知器の設置などの消防法等の規制が緩和されるなど、開業コストを抑えられるメリットがあります。ただし、農家民宿と農家民泊の特徴として、農業体験等の提供を前提とした営業が必要となっており、「農林漁業体験民宿」として旅館業法上の許可が必要な農家民宿は宿泊料が徴取できるのに対し、各都道府県の農林水産課等の許可等で始められる農家民泊は食事代や体験指導代を徴取できるものの、宿泊料として徴取することはできないという違いがあります。

農家民宿爺爺のオーナー、坂口 博幸さん

姫路城からバスで20分ほど離れた兵庫県姫路市書写で暮らす坂口 博幸さん(現在66歳)は今年2月に「農家民宿爺爺」をオープン。ホストの坂口さんは社会人時代にヨーロッパで約8年間の駐在を経験。フィールドエンジニアとして、船舶用機器や銀行用機械の設置や技術講習を行った。海外で言語や文化の壁がありながらも現地の人との触れ合いから今までになかった経験や価値観を持つことができたと振り返る。定年後、農家を営む坂口さんは社会人時代の経験と農業資産を活用して、訪日外国人に日本を深く知る機会を提供したいと「農家民宿」をオープンさせた。

質問項目

  • Q1. どのような経緯で農家民宿を始めたのですか?
  • Q2. 農家民宿ならではの体験とは何ですか?
  • Q3. 農家民宿を選ぶ宿泊客はどのような客層ですか?
  • Q4. 宿泊客はどのような旅程で姫路市を旅行するのですか?

Q1. どのような経緯で農家民宿を始めたのですか?

社会人時代にはフィールドエンジニアとして駐在や出張で海外生活を経験

私は35年ほど前にスペインで3年半ほど駐在した経験があり、ドイツでも5年ほど働いたことがあります。ドイツではベルリンの壁が崩壊した時に現地にいたり、イエメンに出張に行った時には南北統一の式典が開かれていたりと、歴史的な出来事を肌で感じて興奮したことを覚えています。仕事ではフィールドエンジニアとして、日本の技術を利用する海外取引先に直接出向き、現地で機械の設置や技術講習をしました。駐在時代はアフリカ・中東地域にも出向き、政府開発援助(ODA)の一環で漁業で利用する機器の設置や講習などを行いました。

言語や文化の壁にぶつかるが、現地住民からの思いやりは忘れられない人生の思い出に

日本とは言語も文化も違う環境で長年働く中で、アフリカのモーリタニアに出張した際に現地の一般家庭に招かれて、お茶を飲む機会がありました。何もない質素な家の土間のござの上でお茶をごちそうになりました。貧しくて生活の大変さを容易に感じることができたのですが、「おもてなし」を大切にする姿勢に感動させられました。他にも家族で駐在したスペインやドイツでも現地住民から親切な振る舞いを受けた経験は今でも記憶に残っています。そのような海外経験もあり、定年を迎えた今になって、今度は私が日本に来る外国人に日本の文化を触れられる機会が作りたいと思うきっかけになりました。

関係機関の後押しで「農家民宿」を本格始動、役所の親切な対応もあり、無事開業へ

ただ、本格的に農家民宿を営業しようと考え始めたのは去年の夏頃でした。まずは保健所に相談に行きました。私の自宅は区割りが一般住宅地であるため、旅館の運営ができない代わりに、農家民宿の運営ができることを知りました。法律に基づいて家の一部をリフォームしなくてならず、リフォーム後の図面ができた時点で 保健所, 消防署, 市の都市計画課 から承認を得ながら進めました。客室面積は建物の半分以下の面積に抑える必要がありました。

規制対応への初期投資や収益性への不安から諦める農家がほとんど

保健所と消防署の方が立ち入り検査に来られ、実際に建物の各所の寸法を詳しく確認され、全ての必要事項に満足された上でようやく営業許可が下りました。市の職員の方の話によると、農家民宿に関する問い合わせは多いが、実際に営業までこぎつけたのは稀だそうです。農家民宿を営業するのにリフォーム費用などの初期投資がかかることや市の中心から離れた住宅地に本当に宿泊客が来るのかという不安から結局諦める人が多いそうです。

IMG_02551リフォーム後の客室

Screen Shot 2017-07-24 at 1.06.41 AMリフォーム不要だったリビング

Q2. 農家民宿ならではの体験とは何ですか?

ホスト側のメリットとして、農業体験は「おもてなし」の負荷があまりかからない

農家民宿や農家民泊の特徴として、「農村滞在型余暇活動」として農業体験あるいは農業に関する情報の伝達を提供することを前提に営業しなくてはなりません。今までに宿泊したゲストには、ネギやレタスの植え付け, 田んぼの代掻き, 餅つき, 苺摘み, 黒豆の移植, キャベツの収穫から直営所への販売までの流通 などを体験してもらいました。ゲストが帰国後に、植えた野菜がどう育っているのか、写真をメールで送ったりもします。雨天の場合は、四季折々の野菜をスライドショーで見せて、農家の暮らしぶりを紹介しています。農業体験を提供するホスト側のメリットとしては、普段やっている農作業をゲストに手伝ってもらえることです。そして、土いじりをすることが珍しいゲストは非日常的な体験として楽しまれることが多いです。

P4キャベツの収穫(フランス人ゲスト)

Screen Shot 2017-07-22 at 11.15.07 AM(Edited)畳工場の見学(フランス人ゲスト)

P12お好み焼き体験(アメリカ人ゲスト)

P13苺摘み(アメリカ人ゲスト)

P20黒豆の移植(中国人ゲスト)

P2田んぼの代掻き(中国人留学生)

日本の一般家庭に泊まるだけでも外国人ゲストにとって驚きが多い

そして、ゲストにとって日本の一般家庭で宿泊すること自体が貴重な体験になっています。我が家に到着した時点で、外国人ゲストは長屋の家で泊まれることに感激され、アニメやテレビで思い描いていた日本の一般家庭に泊まることを特別に感じることも少なくありません。特に家の中で外国人ゲストの興味を引いたのはトイレのウォシュレットやリビングの掘りごたつでした。ヨーロッパは陸続きで文化が似た部分が多いのですが、ヨーロッパのゲストにとって日本の文化はとてもエキゾチックで、日本人が「普通」に感じることでも興味津々だったりします。そして、全般的に宿泊客は都会に住んでいることが多く、静かで緑が多いちょっとした田舎の風景に喜ばれることもあります。

日本人学生に外国人ゲストと触れ合える国際交流の場を提供

我が家の特徴として農業体験だけでなく、私が農家民宿の隣で経営する学生寮の日本人学生や外国人留学生が参加して、国際交流ができる機会も提供しています。日本人学生は英語を実際に外国人相手に話す良いきっかけにもなっています。ふとした話の流れからアメリカ人ゲストと将棋が話題になり、日本人学生がアメリカ人ゲストと将棋対決したりと、このような地元学生との交流も滅多にできない体験だと思います。さらに、「食」を共にすることでゲスト同士で会話がしやすくなり、見知らぬ人でも自然と交流しやすくなります。

P3日本人家族がドイツ人とシンガポール人ゲストと一緒に餅つきを体験

P7バングラディッシュ料理を囲んで外国人留学生と日本人学生がアメリカ人ゲストと国際交流

外国人観光客からの口コミ例:

  • ホストの坂口さんは地元の観光地の紹介だけでなく、地元民の暮らしぶりを知るきっかけを作ってくれました。日本人学生(韓国人留学生と中国人留学生も参加)と一緒に食事する機会がありました。そして、お好み焼きやたこ焼きの作り方も学ぶことができました。キャベツ, 玉ねぎ, 苺 を育てている畑で農業体験ができました。他にも畳職人に会えたり、地元の温泉に行けたりと、一般的な観光とローカルならではのニッチな体験の両方が得られました。ホストはとても思いやりがある方でとても良い滞在でした。(フランス人男性)
  • ホストの坂口さんの民宿に泊まるだけでも姫路に来た甲斐があったと思います。観光地だけでなく、地元ながらの生活も体験できました。姫路城からバスで15分ほどの距離にあり、運賃も300円以下で行けます。人里離れた感じですが、市街地からのアクセスも良好です。昼は映画「ラストサムライ」の舞台にもなった書写山圓教寺に行き、夜は地元学生とお好み焼きやたこ焼きを一緒に作り、ふとした会話の流れから将棋もしました。朝は苺摘みを体験し、近くのカフェで坂口さんを通じて地元民と触れ合うことができました。(アメリカ人女性)
  • 今回は日本に来るのは2回目で友人と来ました。ホストの坂口さんの民宿の部屋はとても綺麗で、快適でした。そして、坂口さんは旅程の相談に熱心にのってくださり、次の日に書写山に行くことにしました。書写山からの景色も良く、古めかしさと静けさを感じました。たった2日間でしたが、坂口さんの優しさを感じました。日本で田舎の暮らしぶりを学び、深い体験がしたければ、坂口さんの民宿がオススメです。坂口さんは中国語も話すことができて、コミュニケーションにも問題がありませんでした。(中国人女性)

Q3. 農家民宿を選ぶ宿泊客はどのような客層ですか?

初ゲストはイギリス人、Airbnbのみの集客で外国人比率は9割

姫路城からバスで20分の一般住宅地で少々不便な土地柄なため、オープン当初は本当に宿泊する方がいるのか半信半疑でしたが、初めてのゲストがイギリスから我が家の玄関口までいらっしゃった際にはとても感動しました。只今、Airbnbのみで集客をしているのですが、だいたい外国人比率は9割で、日本人による民泊の利用はまだ少ないといった現状です。

日本人と外国人とでは宿泊客の属性が異なる、新婚旅行中のフランス人夫婦が宿泊した例も

日本人宿泊客の場合、予約が前々日や前日に入ることが多く、祝日や休日などで他の宿泊施設で空室がなかったため、我が家に宿泊されるケースがほとんどです。外国人宿泊客に関しては、今年2月にオープンした当初は イギリス, ドイツ, フランス, ベルギー などのヨーロッパのお客様が多く、Airbnbはヨーロッパで流行っているからだと思っていたのですが、5月後半からは アメリカ, オーストラリア, シンガポール, フィリピン のお客様がいらっしゃり、6月後半には中国のお客様が増えました。それぞれの国で休暇が取りやすい時期が異なり、来日する時期も国によって違うのだと思います。そして、一般家庭に泊まってホストと交流したいという外国人宿泊客からのニーズが多く、新婚旅行で来日したのにも関わらず、あえてホテルに泊まらないフランスの若夫婦もいらっしゃいました。

Q4. 宿泊客はどのような旅程で姫路市を旅行するのですか?

姫路観光は姫路城だけではない、Airbnbホストのアドバイスで新たな「観光地」を発見

日本人宿泊客の場合は、子供連れでいらっしゃる方が多いため、サファリパーク形式の動物園と遊園地が併設されている姫路セントラルパークに行かれる方が多いです。外国人宿泊客の場合は、チェックイン前にすでに姫路城を訪れた方がほとんどです。私は宿泊客がチェックインする際に書写山の麓にある我が家から徒歩で行ける書写山圓教寺を勧めています。書写山は徒歩で1時間ほどの山道を登った後に米映画「ラストサムライ」のロケ地にもなった圓教寺があります。姫路城に視察しに来た映画製作スタッフと共に時間が余ったため圓教寺に訪れたエドワード・ズウィック監督が一目惚れして映画のロケ地として選んだように、外観が美しく観光客が多い姫路城よりも静かな面持ちで観光客が少ない圓教寺の方が楽しめたという声が今まで宿泊した外国人客からもありました。

c0d69f82-53d3-4fbe-84ad-e4b9bc4f73da書写山圓教寺摩尼殿

IMG_7196書写山圓教寺食堂(じきどう)

外国人宿泊者はJRレールパスで日本を周遊するケースが多く、姫路の次は広島や松山に行く

我が家に宿泊する外国人観光客はJRレールパスで長期間日本に滞在する人が多く、1ヶ月前から部屋を予約される方もいれば、前日や前々日に予約を入れる方もいます。宿泊日直近に予約される外国人観光客は旅行するルートをある程度固めた上で、臨機応変に宿泊する場所を予約しているように見受けられます。一方で、1ヶ月前に予約する外国人観光客の中には旅行先のオススメや姫路から次の旅行先への行き方などを事前に細かく質問する方もいます。長期で旅行する方は姫路の後に広島や松山を目指し、さらに西へ向かう方が多いと感じます。

アジアからの宿泊客は短い時間で多くの場所を訪れ、見所を逃したくない傾向がある

今までの宿泊客とのやり取りの中で、アジアからの宿泊客は短い時間でより多くの所に行く傾向があり、観光地のオススメを私に聞いて、見所を逃さないように完璧な旅程を立てているように見受けられます。以前に宿泊した中国人の方でどうしても城崎温泉に行きたくて、我が家からJRの特急で片道2時間かけて、日帰りで城崎温泉に行った方がいました。おそらくゆっくり観光はできなかったとは思いますが、JRのレールパスを有効活用しなるべく多くの有名観光地に足を伸ばしたいという気持ちが伝わってきました。

以上、兵庫県姫路市で「農家民宿爺爺」を経営する坂口 博幸さんとのインタビューをお届けしました。

果たして、4回に分けてお届けした宿泊シリーズは如何だったでしょうか?

ホテル, ゲストハウス, 民泊(ホームステイ), 農泊(ファームステイ)の宿泊形態別でインバウンド(訪日外国人)をゲストとして多く抱える運営者にインタビューを行いました。

本メディア「 INBOUND RESEARCH .jp 」では、旅行現場での生の声をもとに作成した自主調査記事を隔週配信いたします。今後とも引き続きご覧いただけますと幸いです!

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