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インバウンド消費よりも凄い越境ECのナゾ、沈静化する「爆買い」の裏側で伸び続ける越境ECの最新動向。

今回は、関税の引き上げや空港調査の厳格化で中国人観光客の爆買いが収まった2016年でも成長を続けている越境ECの動向に注目しました。そこで、様々な日本企業の越境ECへの進出を支援してきた株式会社アイブイピー(以下、アイブイピー)の代表取締役、縄谷 正明氏に越境ECでの成功事例や最新動向についてお聞きしました。

統計から分かる、インバウンドと越境ECの消費動向

伸び続ける訪日外客数により、宿泊料金と飲食費への支出が増え、2016年のインバウンド旅行消費額は3兆7476億円に達し、前年比で7.8%の増加でした。そのうち、費用別構成比で38.1%の買い物代は1兆4261億円と大部分を占め、前年比で1.9%の減少と対照的な結果でした。その主な理由にインバウンド買い物消費額の半分以上を占める訪日中国人が日本で買い物を抑えたことが挙げられます。

InboundGraph1観光庁が2016年11月に訪日中国人406名に対して実施した「日本滞在中における買い物支出の緊急調査」の結果によると、日本滞在中の買い物支出を抑えた理由に「関税の引き上げ」を選んだ人は全体の44.6%、「越境ECの利用」を選んだ人は全体の22.4%でした。関税の引き上げが行われた2016年4月以降の9ヵ月間において、これらの理由で訪日中国人が日本で買い物を抑えた額が約2,000億円と試算されており、訪日中国人が抑えた消費の一部が越境ECに流れていることが分かりました。

ただ、訪日中国人一人当たりの買い物支出の下げ幅が鈍化傾向にあり、2015年は16万1,973円、2016年は12万2,895円、2017年1月〜9月期(速報値)は11万7,082円でした。

InboundGraph2.12017年1月〜9月期において、前年同期比で11.0%の増加で推移する訪日中国人の訪問者数が、前年同期比で5.1%の減少で推移する訪日中国人一人当たりの買い物消費額を上回り、訪日中国人買い物消費額は回復基調に向かっています。また、インバウンド買い物消費の増加額は中国に次いで、一人当たりの買い物消費額が低い傾向の韓国が高く、訪日韓国人の訪問者数が前年同期比で40.3%と大幅に増加したことが大きな要因だと言えます。これらの理由から、インバウンド買い物消費額が2016年に底を打ち、訪日外客数の伸びと共に2017年以降も堅調に増えていく兆しが見えました。

InboundGraph3一方で、越境ECはインバウンドほど脚光は浴びませんでしたが、着実に市場規模を伸ばしています。中国人観光客による「爆買い」が流行語になった2015年はインバウンド買い物消費額が前年比で103%の急激な伸びを記録して話題になった一方で、中国人消費者が越境ECで日本から購入した金額は30%ほどの高い伸び率を維持し、右肩上がりに成長し続けています。中国における日本商品の購買市場は2017年に越境ECがインバウンドよりも60%ほど大きい規模に成長すると予想されており、インバウンドと越境ECの両方を意識したマーケティングが今以上に重要になっていくと思われます。

InboundGraph4果たして、どのような日本の商品が越境ECで買われているのでしょうか?

インタビュー質問項目

  • Q1. 越境ECとは何ですか?
  • Q2. どのような経緯で御社が越境ECを支援するようになったのですか?
  • Q3. どのような日本企業が越境ECで成功しているのですか?
  • Q4. 中国人観光客による買い物消費が急伸した2015年とその消費が一服した2016年では中国人観光客に大きな心境の変化はあったのでしょうか?
  • Q5. インバウンドよりも越境ECが急激に購入額を伸びている状況下で、今後はどのようにインバウンド観光客に対して商品を売っていくべきなのでしょうか?
  • Q6. どのような商品が越境ECで売りやすいのでしょうか?
  • Q7. 越境ECで注目している今後の動向は何ですか?

Q1. 越境ECとは何ですか?

越境ECとは、インターネットで海外の商品を売ることを意味します。日本の商品を海外で売るだけでなく、海外の商品を日本で流通させる場合も越境ECの定義に含まれます。ただ、日本を販売元とした日本発の越境ECビジネスが注目を集めています。そして、海外の商品を日本に仕入れる事業よりも日本の商品を海外に売り込む事業の方が支援のニーズがはるかに高いと感じています。

Q2. どのような経緯で御社が越境ECを支援するようになったのですか?

国内向けのECサイトの構築を依頼した顧客から海外でも商品を売りたいという依頼を受けたのが始まりです。元々、マニラに開発拠点があることもあり、英語のウェブサイトも難なく構築できるという事業上の強みがありました。その後、会社の方針として、日本企業の越境ECへの進出に対する支援事業に本腰を入れることにしました。

Q3. どのような日本企業が越境ECで成功しているのですか?

越境ECサイトの構築ではBtoCよりもBtoBの成功例の方が多い

当社が知る限り、日本企業が越境ECで成功した例は圧倒的にBtoBが多く、BtoCの成功例はごく限れらたニッチな分野だけです。日本では中古でも品質が高い製品が多く、日本では売れなくなった中古商品が海外で修理されて販売されていることも少なくありません。BtoBの分野では海外の卸業者に販売するECサイトに力を入れている日本企業が多いように見受けられます。例えば、当社のお客様ではありませんがイメージしやすい例として、中古ピアノの買取・販売を行う「タケモトピアノ」は日本で中古ピアノを買取し、修理を施した後に海外の業者に販売して差益を得ています。このようなBtoBモデルは越境ECでは地味ではありますが成果が上がっている事例が多いです。

新興市場の越境ECビジネスはBtoBの取引が多い

新興市場では日本から輸入しないと入手できない物もあります。海外で流通していない機械の部品を日本から輸入したりと、消費用ではなく、業務用で購入する業者が多いという印象があります。海外の生産ラインで使用される機械のメンテナンス部品は希少性から日本でしか購入できないこともあります。また、日本のネットで中古時計・アクセサリーを仕入れ、海外現地で修理して、露店で販売して生計を立てている人もいます。こういった転売目的の業者もいます。

BtoCの分野では先進国で趣向性の高い商品で売れた例が多い

BtoCの分野では、消費者が通関チェックや物損のリスクを抱え、海外配送料を含めて買おうと思わなければ、日本からの購入には繋がりません。従って、日常品の購入は少なく、北米や欧州の高所得国や新興国の高収入層による趣向性が高い商品の購入で成功している事例はあります。当社がサポートして大きく伸びた越境ECサイトの例として、所謂サブカルチャーものですが日本のオタク文化が好きなヨーロッパ圏の購入者が増え、国外売上が飛躍的に伸びました。その他に、日本武道への関心が高いロシアでは日本の職人が作る伝統工芸の日本刀を取り寄せるといったニッチなニーズで成功している例もあります。

Q4. 中国人観光客による買い物消費が急伸した2015年とその消費が一服した2016年では中国人観光客に大きな心境の変化はあったのでしょうか?

関税の引き上げで転売目的の訪日中国人が減り、観光目的の比重が高くなった

日本の電化製品は日本で2万円で販売されていても、中国で4万円と倍の値段で売られていたりと、日本の商品を安く買って転売する目的で日本に買いに来た中国人旅行者が関税の引き上げや通関チェックの厳格化で日本で買い物を控えただけであり、今までの中国人観光客の爆買いが異常だったとも言えます。中国人業者が数人の中国人バイヤーに日本で購入する商品を割り当て、日本への渡航費を払って派遣した爆買いツアーが横行していた時期もありました。家族で一台あれば十分である炊飯ジャーを何台も買うのは明らかに転売目的の購入であり、このような買い物が関税の影響で減ったのです。訪日中国人の旅行目的は購買より今は本来の比重が高くなってきたと言えるでしょう。

中国で「保税区」の制度が設けられ、より安心でスピーディーな海外配送が可能に

また、中国国内では「保税区」という地域が作られ、各省でかけられる関税が違っていたのが一律の制度になりました。知り合いがいる通関を通せば、関税が安くなっていたという話を聞いたことがあります。一方で、通関で2週間待たされた後、通関職員の言い値で課された高い関税を払わないと送り主に返されるトラブルもあったそうです。今では予め保税区に届出した商品についてはこのようなリスクが減り、通関にかかる時間が短縮し、越境ECをより安心して運営できるようになりました。また、日本から直輸入する方法よりも安く購入するために日本から香港に商品を持ち込み、香港内の消費に課せられる低い関税を払って、香港から深圳に陸路で移動して関税をすり抜けている事業者もいるそうです。いずれにせよ、業者間で様々な方法を駆使し、日本の商品を安く仕入れて中国で差益を稼いでいると言えます。

Q5. インバウンドよりも越境ECが急激に購入額を伸びている状況下で、今後はどのようにインバウンド観光客に対して商品を売っていくべきなのでしょうか?

転売目的のインバウンド消費を狙う、正規品の証明があると転売しやすい

中国人観光客が「マツキヨ」などのドラッグストアに訪れる理由に、日本の商品に信頼感を寄せているからだと言えるでしょう。偽物が横行する中国では消費者の薬や食料品に対する不信感が強く、特に体内に入れたり、肌に塗る商品に対しては安心・安全な商品を求める傾向があります。また、個人消費用だけでなく、親戚・友人にお土産を買ったり、他の人に転売目的で購入する中国人観光客は日本で購入した正規品であることを保証できれば購入しやすくなります。流通過程で本物が偽物にすり替わっていないことを証明するために模倣されにくいホログラムを入れたパッケージやシリアル番号で本物であることが確認できると転売目的の購入が増えるのではないでしょうか。そのため、容易に破られるパッケージは避けるべきです。

インバウンド客に定期購入を促す行動で固定客化する

また、アジア圏の旅行者は歯磨き粉などの単価が低い日用品を購入する傾向があり、海外で買い増しする需要があります。外国人観光客に対しても物を売っても、リピート客になりにくく、一回の来店でお客さんとの繋がりが切れてしまいますが、定期配送で商品を海外の住所にダンボールで配送する契約をリアルの店舗と外国人旅行者の間で結んで発送するのもやってみる価値はあると思います。個人では使い切れない商品に関しては現地で友人等に売ったりするのでこのような仕組みがうまくいく可能性もあります。

越境ECサイト構築の成功例は中国以外の市場が多く、中国は大手モールとの連携が大切

実は中国で本格的に越境ECサイトを構築するには中国に合弁会社を設立し、中国政府がウェブサイトを承認をもらい、アリペイ決済や銀聯カードなどの中国独自の決済システムの構築に手間がかかります。そのため、中国 EC 最大手のアリババ集団の「天猫(Tmall)」などのモールと連携することが重要になります。日本企業による越境ECサイトの構築は中国での参入ハードルが高く、日本企業が運営する越境ECサイトが成功した例は中国以外のマーケットが圧倒的に多いという印象です。

Q6. どのような商品が越境ECで売りやすいのでしょうか?

「日本独特だから」よりも「日常生活で安価で良質な物」が日本商品に求められる

中小企業庁が国内の事業者に向けて越境ECへの出店に1件当たり100万円の助成金を出す施策の審査員を務めたことがあります。日本にあり海外にないものは受けがいいのではないのかという仮定のもとで、畳や人形などの日本の伝統工芸品を出店する事業者が助成金を受けて販売しましたが、越境EC事業で商売が成り立つ例はごく稀でした。このことから日本独特だからと日本の伝統工芸品を購入する需要は海外の一部だけに存在し、大多数の外国人が日本ブランドに求められるのは日常生活で安心できるものを安く購入できることであることが分かりました。基本的にインバウンドに売れる商品が越境ECでも売れているのです。海外進出している日本ブランドの一つ、「無印良品」は高級感はないですが、日本ブランドの「安心・安全」のイメージを全面に出していることが、日常生活で少し良いものを求めるようになったアジア圏の消費者の購買意欲を刺激しているとも考えれます。

Q7. 越境ECで注目している今後の動向は何ですか?

越境ECの発展に物流面のイノベーションは不可欠

インバウンドにあって越境ECにないものは流通過程で偽物に変わっていないという確証です。特に中国人観光客はBtoCの「天猫」で売られている商品でさえも偽物ではないのかと完全に不安は拭えきれません。全日空商事が中国国内ではヤマト運輸のサービスを利用するなどし、一気通貫で流通過程を担うことで中国人消費者に対して不安を払拭する試みがなされようとしています。中国における物流面でのイノベーションにも注目しています。

写真:株式会社アイブイピーの代表取締役、縄谷 正明氏とのインタビュー風景

以上、株式会社アイブイピーの代表取締役、縄谷 正明氏とのインタビューをお送りしました。

インバウンド消費の取り込みに成功している日本企業が中国人向けに越境ECビジネスに参入している有名な例として、ドン・キホーテの動向を当社は注目しています。当社の中国人社員によると、多言語対応、決済システムの充実度、店舗価格とさほど変われない価格帯で提供する越境ECサイトをドン・キホーテはホームページ上で運営しているが、アリババ集団が運営するECサイト「淘宝」や「天猫」などのモールでの買い物に慣れている中国人消費者がドン・キホーテのECサイトに日本商品の買い物の場を移るかが焦点になっています。

当社、株式会社フリープラスが運営する INBOUND RESEARCH .jp では、インバウンドの自主調査記事を配信しております。インバウンド市場についてのプロモーションや調査に興味がございましたら、以下のお問い合わせフォームより気軽にご連絡いただけますと幸いです。

出典:

  • 図表1〜3:観光庁「訪日外国人消費動向調査」。2017年の年間予測値は1月〜9月期の速報値を元に10月〜12月期を予想。日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」の2017年1月〜9月期の前年同期比を2016年10月〜12月に掛け、2017年10月〜12月期の「訪日外客数」を算出。その数値に2017年1月〜9月期の「訪日外国人1人当たりの買い物代」を掛けて、2017年10月〜12月期の「訪日外国人買い物総額」を試算。
  • 図表4:経済産業省「平成28年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」。越境BtoC-ECの市場規模を参照。2017年の年間予測値は経済産業省が独自に予想した数値を使用。

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